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2010年10月 アーカイブ

ゴッホを知る 7

この時期のゴッホの作品は、一方で死に身を委ねながら、そういう根源から生れ出てくる動性そのものを、対象のうちに生かそうとするという動機につらぬかれていると言っていいでしょう。


ひまわりが、アルル時代のゴッホのもっとも重要な主題のひとつだったとすれば、サン・レミ時代のそれは、彼が「線といい比例といい美しく、まるでエジプトのオダリスクのようだ」と感嘆し、「これは日の当った風景のなかにある黒い斑紋だ」と評した糸杉。


この2つの主題の形態上の相違が、そのまま、画家の態度の相違を表わしていると言っていいでしょう。


ひまわりは、太陽と生命をたたえるように輝きながらも、画面のなかに、しつかりとした均衡をもってつなぎとめられているのに対して、糸杉は、文字通り、黒い炎となって、よじれ、波打ち、燃えあがっています。


主題をなす糸杉ばかりではありません。


背景をなす野も山も空も、混沌として、うごめき、ゆらぎ、渦巻くのです。


サン・レミ時代のゴッホの、もうひとつの重要な主題はオリーヴであって、彼は、この主題について、こんなふうに語っている。

「オリーヴ畑は実に特色が豊かだ。


何とかそれを捉えようと懸命になっている。


あるところは銀色、あるところはもっと青く、ある『部分はまた緑がかり、青銅色にこげ、それが、黄色い、ピンクの、紫を帯びた、あるいは黄土色を帯びて、鈍い赤土色にまでなっている地面のうえに白く見えている。


しかしこいつを描くのは、いやはやなんとも難しい。


しかし金色や銀色のまんなかで仕事をするのはぼくにはいいし、気持ちを引きつける。


そして、おそらくぼくは、いつか、向日葵の黄色におけるように、このオリーヴ畑からぼくの個性的な印象を描きだすだろう」。

ゴッホを知る 8

例によって、ゴッホの、緻密で鋭敏な色感と、あふれ出るようにことばを並べていくに応じて、オリーヴの色ばかりではなくその質感までも生きいきとした手触りをもって浮ぴあがってくる語りくちには、感嘆するほかはないでしょう。


しかも、それだけに尽きるものではありません。


ゴッホは、オーヴェルでゴーギャンに書いた手紙のなかで、


「君はオリーヴの畑を見たことがあるかね。


いま現代独特の悲痛な表情をしたガッシェ医師の肖像を描いている。


言うなれば、これは君が『オリーヴの畑のキリスト』で語ったのと同じようなものだ


・・・と述べています。


この2つの文章を結びつけてみると、ゴッホにおいては、麦や、糸杉ばかりではなく、オリーヴもまた、死という源泉から刻々に養分を吸いとりながら伸びているものであることがわかります。


ゴッホの描いたオリーヴの、あの青く冷たい焔のような姿は、彼の内部のこのような動機のあらわれなのです。

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