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2010年08月 アーカイブ

ゴッホを知る 3

そして、いま、自分が観光客めいたのんきな顔つきで、こんなところまでやってくるということが、なんとも奇異なことに思われました。


そのあと私は、ゴッホの生活のあとを求めて、アルルの町を、まさしく犬ころのように歩きまわったのですが、あいにく「黄色い家」も、カフェ・ダルカザールも、あるいは爆撃で破壊され、あるいは区画整理のために取り壊されて、もはやその姿をとどめていませんでした。


私は、そのあとに冷やかに広がる広場や道路を、ぼんやりと眺めていましたが、このような欠如が、かえって私の想像力を刺激したようです。


私は、その空白のうちに、ゴッホが、アルル滞在中に写生にでかけた、地中海岸のサント・マリー・ド・ラ・メールも訪れました。河成鎮一郎氏によると、海の眺めは、ゴッホの、

「地中海はまるで鯖のような、千変万化の色彩で、いつ緑やむらさき、いつ青になるかわからない。


光が変わったと思えば、次の習慣にはバラ色か灰色を帯びているという始末だ」


ということば通りであり、塩からい水が昔ながらの波音をたてていましたが、岸の方は、殺風景な埋立地が続いていて、ゴッホが描いた、鋭くとがった先を持ち、鮮やかな朱や緑に塗られた漁船など、ただの1隻も見ることが出来ませんでした。


しかし、このときもまた、その欠如のうちに、あざやかな船の姿が浮かび上がってくるのを覚えたのです。

ゴッホを知る 4

1月7日、ゴッホは退院して家に戻りますが、2月9日、再び病院に連れ戻されます。


その月の27日には、彼の病状に不安を覚えた市民たちの請願で病院に監禁されることになります。


しかし彼は、こうした状態にありながらも、不屈の意志をもって、再び制作にとりかかります。


彼が描いたのは、たとえば、酒瓶、水差し、パイプ、玉ねぎ、煙草入れ、ローソク立て、マッチ箱、テオからの手紙、医学書など、彼の生活を支える品物を描き込んだ『玉ねぎのある静物』。


「子供でもあれば殉教者でもある船乗りたちが、その絵を氷島の漁船の船室で見たら、自分の子守唄を思い出させるあの揺りかごに揺られているかんじ」を表現しようとした『揺りかごを揺る女』。


そして『耳を切った自画像』です。


これらの絵は、当時の彼が求めていたものをおのずから示していて、なんともいたましいのです。


4月の末、彼は外人部隊へ入ろうと考えます。


絵を描き続けうるかという不安、テオへの心づかいなどが激しく燃え上がったための思いつきでしょうが、何とか気を持ち直し、5月8日、サン・レミの精神病院へ入院するのです。

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